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2024年1月29日月曜日

魂消た男もいるもんだ(南八ヶ岳・権現岳遭難考)

 ネットニュースを見ていたら八ヶ岳の権現岳(2715m)で遭難・救助の見出しが・・山のニュースには必ず目を通す山爺、読んでいるうちに驚くやら呆れるやら、笑うやら・・遭難で笑うとは不謹慎だがここは笑うしかないだろう。ニュース内容は次のとおり。

12月25日、単独で八ヶ岳連峰権現岳に入山した男性(24歳)が、三ツ頭登山口から入山し、権現岳から赤岳に向けて縦走中、雪が崩れスリップし、滑落、負傷する山岳遭難が発生し、無事救出しました。


内容をよく読むと遭難というよりこれは自ら招いた事故である。ちなみに広辞苑で遭難を調べると”災いに遭うこと、遭難に出会うこと。特に登山、航海などの場合をいう事が多い。”とある。山爺の私見では運悪く災難に出会うのが遭難と思っている。

今回の遭難?は運悪くではなく起きるべくして起きてしまった事象である。

現場の険しさから考えるとよくもまあ無傷で生還できたものだという観点で、笑うしかないと申し上げている。事の内容は以下のとおり。

草加市在住の会社員Aさん(24)は去年12月の25日深夜に山梨県側の天女山から入山とあるから最終便で甲斐大泉駅に着き、そのまま歩き出したようだ。

Aさんは2年前から登山を始めたが冬山は初挑戦だとか。

山を始めて2年で冬山に行きたくなるとは余程山に魅せられたに違いない。著名な作家のエッセイに”山を好きになるということは性悪女に惚れ込むようなもの”とあったことを記憶しているが、ポイントをついた表現だ。

山も女も好きになるのに損得や理屈じゃないんだよねえ、周りが見えなくなりそこへまっしぐら、そのために命を落とす人だっている。寅さんのセリフじゃないが『この人のためなら死んじゃってもいい、という気にならないか?』幸い山爺はそうならなかったがAさんも性悪女に惚れた一人だろう。

冬山装備としては4本爪アイゼンのみ、ピッケルは持っていなかったようだ。食糧はゼリー飲料2個・チョコバー3個・水ペットボトル1・5L、うわあ、厳冬期の山に挑むのに食糧そんだけかい。日帰り低山ハイクでも普通もっと持っていくぞ。水だってペットボトル入りでは凍って飲めなくなることもある。(食糧は明け方までに食い尽くし水は凍って飲めなくなりAさん難渋したようだ・・・・携帯コンロ携行していれば山中の随所で雪を溶かせば水が得られるので夏山より冬山の方が水に関してはよい環境なのだがねえ)

八ヶ岳を選んだ理由は①ネットで初心者でも冬登れる山と検索したらヒットしたから・・そんだけが動機かい。②北アルプスは吹雪のイメージがした③八ヶ岳は内陸なので天候が安定しているから・・うんうん、そのへんの考えはまともだが八ヶ岳の北部はともかく南部は決して初心者向きの山じゃあないんだよねえ。ネットガイドも間違って案内しているよ(たぶんAさんガイドを鵜呑みにして行動)南部は火山ゆえ樹林帯は全くなく険しい岩場の連続で冬場に限って言えばアイゼンとピッケルワークが必要な上級者向けの山だと思う。

Aさんの予定ルートは天女山⇒三っ頭⇒権現岳⇒キレット⇒赤岳⇒横岳⇒硫黄岳⇒天狗岳⇒高見石小屋宿泊、食事はここで提供してもらえるから大丈夫と思った。・・っておいおい1日でどこまで行く気だ。夏山でさえ権現岳まで休憩なしで有に5時間、高見石小屋までは15時間以上はかかる。いかな健脚でも1日で踏破は無理だろう。

ましてや厳冬期の雪山である。三っ頭までは登山靴だけでもなんとかたどり着けるだろうがその先には次々と危険箇所が待ち受けている。①権現岳の下りはしご(60段)②赤岳登り(急峻な岩場)③赤岳下り④横岳(岩場の連続)⑤硫黄岳(平坦地なので吹雪かれたり濃霧時に方向見失う)⑥天狗岳(急峻な上り下り)・・ここまで無事たどり着けても(まず無理だろうが・・)食糧はとうに食いつぶしているだろうからガス欠(低血糖)で低体温症を発症し動けなくなることは間違いないだろう。

Aさんは夜通し歩き続け午前9時頃アイゼンを装着せずに権現岳登頂に成功する。厳冬期に
無アイゼンでの権現岳登頂、これはこれですごいことですW。

そして最初の難関60段のはしご場に取り掛かる。が、はしごは氷結して使えないと判断し(こんな時こそピッケルがあればそれを使って砕きながら降りるのですが)アイゼンも着けずに横の雪だまりを選んで下降を始めた。

はしごをかけるくらいだからその場は急峻な坂なんだろう。50度は有にあるだろうか。

ここをアイゼン・ピッケルも持たずして下降する気力に驚いた。普通なら怖気付いて引き返すところだ。危ないことこの上ない、案の定スリップして10mほど滑落、なだらかな場所で足が掛かって停止したようだ。このとき運が悪ければ岩場に腕や足をぶつけて大怪我、頭をぶつければ最悪命が危ういのだが、Aさんには奇跡が起きて無傷だった。

自分の技量でここを登り返すことは困難と判断し・・って困難と思うなら初めから下るなよ!・・携帯電話で救助を要請し無事救助された。今は携帯で簡単に救助要請が出来るから楽でいいですねえ。

もしも携帯がない時代だったら別の登山者に発見されるまでその場に停滞を余儀なくされただろう。運悪く誰も通らなければツェルト(避難用の簡易テント)など持参していないだろうから低体温症により最悪の事態に陥つたことは疑いもない。

ここを無事通過したとしても4本爪アイゼンでは赤岳の登り下りで滑落しそうだし急峻なアップダウンが続く横岳の通過はまず無理だからいずれにしてもこの人は遭難しただろうなあ。

遭難時間が午前9時と早かったのも幸いした。午前中は風も起きにくく、救助隊も朝一だったから活動も素早かったに違いない。最初の難関で早々と遭難したからこの人は助かったとも言えるのだ。

それにしてもこの人、いきなり厳冬期の八ヶ岳縦走に挑戦するとは良い根性してます。夜通し雪道を登り続けた体力といい強運にも恵まれていそうだから良きリーダーの元で勉強すれば立派な山男になるに違いない。

【川柳】

・遭難は 朝一が得 救助され

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