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2019年5月10日金曜日

10連休中の山岳遭難考


今年のゴールデンウイークは元号改正にともなう臨時休日増などもあり、これまでにない長期間(10連休)となった。これを利用して山に入った登山ファンも多かっただろうと思う。

だが、こと山岳に関して言えば今年のゴールデンウイークは温暖前線と寒冷前線のせめぎ合いにより終始天候が不安定で登山に適したとは言えなかった。

連休後半、大方の予報では晴天が続くと報道していたが実際は各地でヒョウやあられが降ったり雷が発生したり大荒れだった。

山爺も4月27日に天気予報の晴天回復をあてにして奥多摩浅間嶺に出かけてみたが結果は雨天模様で散々だったことは前のブログで既に述べた。当日の天気図を見ればわかるとおり弱い西高東低の冬型配置となってしまったのです。

奥多摩の山道を歩きながらこう考えた。『今年もGW連休を利用して多くの方々が山に入っているのだろうなあ。でも、この悪天候だ。高山で遭難者がでなければよいのだが』と案じていたが、翌28日のニュースを見るとやはりと言うか残念ながら北アルプスを始め各地で遭難が起きていた。

①北アルプス北ノ又岳(2662m)山頂付近で兵庫県のTさん(50)が宿泊予定の山小屋にたどり着けそうにないと電話連絡。その日は悪天候だったので捜索を断念。翌日県警ヘリがTさん救助したが死亡確認。右画像が北ノ俣岳

②北アルプス雷鳥沢で28日午前、雪に埋もれていた埼玉県のOさん(79)を県警ヘリが発見。死亡確認。

③北アルプス槍ヶ岳(3180m)で28日午前、2800m付近で横浜市のIさん(55)が倒れているのが見つかりその後死亡確認。

④北アルプスの唐松岳(2696m)で稜線から埼玉県のUさん(57)が滑落、救助し病院に搬送されたがその後死亡した。右画像が唐松岳

⑤熊本県洞岳の権現谷で散歩中のKさん(64)が崖から転落病院に搬送後死亡。

そのほか全国で山菜採りに入った方々3名がそれぞれ滑落(81)斜面で倒れる(80)転落(67)で亡くなった。

これらの遭難・事故は悪天候が影響していたことは想像に難くない。

残念なのは北アルプスでの①~③の遭難である。滑落とかの不可抗力ではなく悪天候の中での低体温症による疲労凍死だったことだ。

27日の北アルプスは天気予報でも大荒れの予報が出ていた。その中を登山したのだから各人とも経験が豊富で雪山に自信があったのだと思うがなぜ登山の中止を決断しなかったのか。

せっかくの連休だから、仲間と約束していたから、山小屋予約済みだからと理由はそれぞれあろう。だが今年の連休は前述のとおり冬将軍(寒冷前線)と小笠原軍団(温暖前線)が押し合いへし合いしており、予報が晴れでも各地で雨雲が発生し落雷その他で大荒れの予報が出ていたはずだ。

山爺も山の天気予報を毎日見ていたが関東甲信越すべての高山は登山には不向きの予報がずらりと出ていた。

5月にもなればさすがの寒さも和らぎ1000m以下の低山なら軽装でも山歩きが楽しめて雨が降っても大事には至らない。

しかし2000m以上の山は5月と言えど時として冬山に戻る。否、冬より始末の悪い状態になるのである。それは湿った雪やみぞれが降り、体にまとわり着くからである。

その点では真冬の方が安全と言える。真冬ならさらさら雪だからダウンジャケットのような防寒具に雪がまとわりつくことはなく叩けばすぐに落ちてしまうので防寒機能は維持できる。だが春先の雪というものは恐ろしいのだ。

湿った雪がどれほど厄介か、3月末~4月中旬ごろの春山で湿った雪が降る中をスキーした経験がお有りの方なら容易に分かるだろう。真冬と違い防寒具が濡れてびしょびしょになるのである。スキー場ならば濡れて寒くなったらロッジに入って休憩したり宿に帰って乾燥室で衣服を乾燥させればことは済んでしまい後は余裕で仲間と楽しく談笑も出来よう。

だが山中では状況はまったく異なる。道中、雪が降っても休憩する喫茶店もロッジもないし誰も助けてはくれない。衣服が濡れ出し寒さを覚えたら早急に山小屋に避難するかツェルト(避難用簡易テント)張るなり雪洞を掘るなりして寒気から逃れる算段をしないと危険だ。

人間の平熱は37℃前後だが低体温症とは、

①軽度の低体温症は35~32℃ 
  • 全身の震え
  • 無気力、意識がはっきりしなくなる
  • 呼吸が早くなる
  • 手足の血管が収縮し、冷たく蒼白になる
②中低温症32~28℃
  • 震えが止まり、筋肉が硬直し始める
  • 錯乱し、服を脱ぎ棄てたり、意味不明の言葉を喋ったりする
  • 呼びかけても反応しなくなる
  • 呼吸が遅くなる
  • 不整脈が出てくる
③高低温症28℃以下
  • 痛みを加えても反応しなくなる
  • 致死性の不整脈が出てくる
  • 自発呼吸がなくなる
皆さんも①の軽度の低体温症の経験はお有りだろう。②はほとんど未体験だと思います。山爺も②以降の体験はしたことがないし、体験したくもありません。

①の状態が長く続くと人間は着込んだりだ暖房器具を使ったりして暖を取る行動をします。街中やスキー場なら寒くなったら外での行動を打ち切りロッジなり居酒屋?なりに駆け込み一息つけば生き返ります。

山中で体調が②になってからでは体の自由が利かず退避行動が取れなくなるので遅すぎます。遭難された方々も①の状態が長時間続いて焦りだしたんだろうと思いますが吹雪の中で避難行動をとる決断はなかなか出来るもんではありません。急いで目的地の山小屋なりに着こうとするだけです。

置かれた状況に流されるまま体調が①から②に移行して進退が極まり体の動きが取れなくなってしまい③になったものと思います。

低体温症は冬場だけに起きるものではなく夏山でも防備が不十分の中冷たい雨に叩かれ続けると起きる。

2009年7月中旬に北海道のトムラウシ山で起きた遭難は旅行社主催のパーティが日程上の都合もあり悪天候の中、行軍を強行して19人中8人の方が低体温症で亡くなっている。

④の唐松岳の滑落にしても吹雪の中、意識が朦朧として平常心が保てなくなって滑落したことも予想されます。

これが入山後、数日してからの遭難や事故なら予想外の自然の猛威で仕方がなかったと言えるかもしれないが、悪天候だと初めから分かっていたのだから中止さえすればすべて防げたであろうと思うと残念でなりません。

その後も連休中、山での遭難が起きたかどうか注意深く見守っていたが新聞(読売)やTVでの山の遭難報道は皆無であった。

例年だと数件は必ず遭難ニュースが報道されるのに・・・連日の悪天候報道で皆さん登山自粛したり無理な行動をしなかったからだろうと安堵していたのだが実際はさにあらず。やはり多くの遭難者が出ていたようだ。

お断りしておきますが山爺は山の遭難を期待しているわけではありません。大好きな山で、たかが山ごときで人が大切な命を落とすことが残念でならないのです。

以下、連休中に各地で発生した山での遭難・事故の様子です。
  • ・群馬県の片品村・至仏山で登山ガイド助手女性が滑落し軽傷(2019年5月6日)
  • ・神奈川県の丹沢・鍋割山で雷に打たれて男性45歳が死亡(2019年5月5日)
  • ・福島県の会津駒ケ岳で男性57歳が病死?(2019年5月5日)
  • ・秋田県の太平山で20歳男子大学生が滑落(2019年5月4日)
  • ・富山県の剱岳で40代女性が滑落死(2019年5月4日)
  • ・群馬県の荒船山と三笠山で男性2人が死亡(2019年5月3日)
  • 山形県村山市の19歳男性普段着のまま山に入り山岳遭難(2019年5月3日
丹沢では落雷による死亡事故まで出ていた。なぜこんな大きな遭難が次々と起きていたのに新聞やTVでは報道しなかったんだろうか。

例年と今年のGWの大きな違いは?そうです。改元がありました。平成の御世が終わり5月1日から令和の時代が始まった。日本国中お祝いムードで一杯です。そんなお祝いに水を差すような暗い山での遭難のニュースなんか取り上げ難かったに違いありません。

令和の時代の幕開けに大手報道機関の全てが国民および関係機関に忖度したんだろうと思うのは山爺だけでしょうか。

【山爺の一言メモ】

10日になってようやく?今年のGW中の山での遭難件数が警察庁より公表された。

警察庁は10日、天皇の代替わりに伴い10連休となったゴールデンウイーク期間中(4月27日〜5月6日)の山岳遭難の発生状況を発表した。死者は昨年より10人多い23人。行方不明者は7人減の1人、負傷者は2人増の76人だった。

 警察庁によると、遭難者は20人増の207人。このうち60歳以上は107人で半数以上を占めた。警察庁の担当者は「体力に見合った余裕のある登山計画を立ててほしい」と話している。警察による捜索や救助活動に投入された人員は延べ925人、ヘリコプターの出動回数は61回だった。

やはり悪天候が大きく影響したのか死者、行方不明者24人、負傷者76人となんとも痛ましい状況にあったようです。とりわけ60歳以上が半数以上を占めています。昨今の高齢者による交通事故と同じく考えさせられる事象ではあります。山爺としても以前より増して慎重に登山に臨まねばなりません。

  • 令和だ、10連休だと浮かれ続けてバカ騒ぎしたGWもめでたく終了し平常な日々が戻ってきました。

    連休前から悪天候続きで残雪の那須岳を諦めた山爺ですが、どこかほかの残雪の山に行きたいなあと思っています。

    なぜ行こうとするのか。そこに山があるから!なんてキザな言葉は吐きません。その大きな要因は去年オークションで中古ピッケルを手に入れたことによります。

    普通は雪山に行きたいからピッケルを手に入れるのですが、山爺の場合はピッケルを手に入れたから山に行きたい。と順序があべこべです。いわゆる手段が目的になっているのです。金づちを持つとどこか叩きたくなるのと同じ、困ったもんだ (    ^P^)



    山爺が手に入れた2代目のピッケルはヤフーオークションで落札したフランス製のシモンカマロです。バランス・形状とも気に入っているので一度でもいいから使ってみたいのです。

    5月末に天候を見極め谷川岳にでも行こうかなあ。あそこならまだ残雪がたっぷり残っているだろう。もちろん無理はしません。ロープウエイを利用して天神平まで上がり山頂直下の山小屋(肩の小屋)に一泊する山旅です。

    6月には会津駒ケ岳にも行きたいと思ってます。ここには、駒の小屋という洒脱な山小屋があります。


    あの山は全山なだらかだからピッケルの出番はないかなあ。でもいいや、持っていこう。そして事情を話し(ピッケル買ったから山に来た)小屋の親爺から笑いを取ることにしよう。


    【狂歌】

    ・それほどに よきかとひとの問ひたらば 何と答へむこの山のこと
      牧水より盗作( ^ω^)
    ・なぜ山へ 多くのひとの問ひやらん 近くにあればと 吾は答えり

    イギリスの著名な登山家ジョージ・マロリーさんはそこに山があるから(Because it's there)と.名言をおっしゃいましたが、山爺も負けてはいません。山爺の格言『山が近くにあるから』登るのです。遠かったら費用がかさむのでそうそう出かけられるものではありません。
    ( ^ω^)

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