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2017年3月30日木曜日

那須茶臼岳山麓雪崩遭難について

3月27日(月)早朝、痛ましい遭難が起きてしまった。あろう事か栃木県高校体育連盟主催の春山安全登山講習会の最中にその遭難は起きてしまった。安全登山を習得するのが目的だと言うのに遭難とはなんと皮肉なことか。

那須温泉ファミリースキー場で雪山訓練中の教師1名、高校生7人合計8名もの方々が表層雪崩に巻き込まれ亡くなった。とりわけ前途ある7人もの若い命が失われたことは残念である。親御さん達の心痛いかばかりであろうか。


山爺は20代から30代後半まで暇を見ては冬季の那須連山を登山し秘湯三斗小屋温泉大黒屋に宿泊することを繰り返していたのでこの山への関心は今でも強い。

2000mに満たない山でありながら火山なので樹林帯もなくアプローチも短いので比較的楽な行程で高山雰囲気が味わえる。そのため茶臼岳の隣の朝日岳は別名偽穂高の異名があるほど見栄えもよく、よい山である。(右図)

しかし樹林帯がないということは雪崩の起きやすい山でもあり、時々雪崩遭難の起きる山でもあった。臆病な山爺はルート選びは、いつも慎重に雪崩の起きにくいところだけ選んで歩いていた。

高校生ころから山を目指している人は幼い頃、親に連れられて山に登ったのをきっかけに山好きになるものが多い。先の長野御嶽山の火山遭難しかりで、あの時も遭難した子の親御さん達からこんなことなら山に連れて行くんじゃなかったと後悔の声を聞いた。

大方の親の場合、子供の精神教育のためという建前で山に連れて行くが、本音は自分の趣味を遂行するのが目的で出かけるのではと思っている。

山爺の娘二人も親のエゴ絡みで幼いころからスキーやハイキング、キャンプに連れて行った。スキーやキャンプは大いに喜んで長続きしたがハイキングは疲れるのが嫌だったのか小学生低学年で頓挫した。今となっては山ガールに成長しなくて良かったと思っている。

今回の訓練は25~27日の3日間で行われており初日が学科とテント設営・2日目が雪上歩行訓練・そして最終日の3日目は茶臼岳(1915m)を登山する予定でいた。

ここで主催者側は第一の大きな過ちを犯している。天気予報では26日から天候が荒れると報じている。県体育連としては天候悪化くらいでは講習企画の中止は出来まい。しかし講習カリキュラムの順序変更は出来ただろうと思う。

講習日程の後ろに行けば行くほど天候が荒れるのが分かっていたのだから初日に基礎技術である雪上歩行訓練・次の日に那須茶臼岳登山・最終日は学科とテント設営と言ったように講習内容を変えることは可能であったろう。26日までは天候は良かったのである。

天候が悪化した最終日にテント設営と学科講習に切り替えれば悲惨な遭難に巻き込まれることはなかったはずだ。登山は常に天候の見極めが肝要のはずなのに一度決めた講習内容を頑として変えない機転のなさが今回文字通り命取りとなった。

26日深夜から降り始めた季節外れ(でもないが)の大雪により午前6時に登山を中止、この降雪を講習主催者側は良いチャンスと思ったのであろう。これを利用したラッセル訓練に切り替えた。

訓練内容からして国体の登山競技を目指していたのだろう。山を楽しむというより真摯な訓練が行われていたようだ。

ラッセルとは新雪を踏み固めながら行進する技術で冬山登山、特に厳冬期で雪が深い山に入るには必要不可欠な技術で主に複数人により行う技術だ。

先頭をゆく人は雪の中を泳ぐように雪を固めながら歩くので当然体力を消耗する。したがって次々と先頭を交代しながら進む。

山爺は冬山の経験も少なからずあるがいつも単独行なのでラッセルしなければならないような山には入らなかった。したがってラッセル経験はほとんどないがスキーで新雪を踏み固めた経験は幾度となくある。

スキー板で1時間もラッセルをやるとヘトヘトになる。山ではこれを数時間もやる訳だから1人ラッセルなど体力消耗が激しく出来るものではない。団体のパーティの後を単独行者がトコトコついてゆくことを通称ラッセル泥棒と呼ばれ嫌われる。

3月も下旬になると降雪も少なくなり雪も締まってくるのでラッセルも必要なくなり歩きやすくなってくる。実は山爺も3月25日~26日に何度も冬に訪れて勝手のわかっているこの茶臼岳と朝日岳を狙っていたのだが、天気予報が思わしくなかったので一週間前、早々に取りやめた。

県体育連も27日猛吹雪のため茶臼岳登山を中止した。ここまでは良い。しかし雪崩注意報がでているのになぜ訓練を続行したのか。主催者側の誰かが『幸い大雪に恵まれた。こんな時はラッセル訓練に最適だ』と進言したものがいたに相違ない。

結果、皆がスキー場なら安心と言う錯覚にとらわれて訓練に踏み切ったのだろう。

だが雪崩遭難位置を画像で確認して驚いた。

平坦なゲレンデ周辺での訓練ではなく茶臼岳の中腹以上の急斜面まで上がって訓練している。これでは登山と同等のリスクを負うことになるではないか。

この辺は雪崩多発地帯だ。まさに鹿を追うもの山を見ずである。・・・過去の雪崩画像参照(左図、中央左の雪煙が雪崩)

しかも気温が上がり始めて雪崩が起きやすくなる時間帯の8時~9時頃に出かけるとは、一体どうしたことだ

大量降雪直後はスキーで横切った程度でも表層雪崩が起きる恐れがあるというのに不用意にそこに踏み込み大勢でラッセルを行い雪面に蹴りを入れ雪面に刺激を与えている。

登山行動途中で必要に迫られてやむを得なくラッセルを行うならまだしも、わざわざ雪崩多発地域に、しかも最も雪崩が起きやすい時間帯に出向いて訓練を始めるとは。山に精通している者の所業とはとても思えない。

後日、主催者側が報道陣のインタビューに答え、ここの(スキー場)雪崩が発生する場所は把握していた。そこを避けて、木の生えている尾根筋を選んでいたので大丈夫と思った。この付近(雪崩遭遇場所)では毎年訓練していると答えている。

なんと浅慮な判断だろう。木が生えているといっても潅木である。木があれば雪崩が起きない場所というのは大木がある場所のことだ。尾根といってもちょっとした高低差でしかない。表層雪崩ではこの程度の尾根は簡単に乗り越えて襲ってくる。

このニュース会見の会話を聞いていると主催者側に本当に冬山の知識を身につけたプロがいたのだろうかと疑問を持ってしまう。

体育系の一部の熱心な指導者はとかく無理な根性論を振り回す傾向にある。

『困難な条件を乗り越えてこそ有意義な登山となる。こんな天候こそ逆にチャンスと思い頑張って行こう』とかなんとか言って強引に訓練続行を提案したのではと思ってしまう。

山爺はしたり顔でこの手の根性論を振り回す輩は大の大~ぃ嫌いである。

悪天候の場合は登頂を断念しトットと下山、山小屋で沈殿(さぼってのんびりする山用語)する選択肢もあるということを教えるのも大事な教育なのではないのかと思う。

山なんかに命かけてまで真面目に登る意味なんてこれっぽっちもない。・・と山爺は考えます。・・しかし、こんなマイナーなこと教えていては国体なんてとても出場は無理ですがね。

【山爺一言メモ】

沈殿:天候等が悪く山小屋やテント内で長時間待機すること。転じて天候悪化をいいことに山小屋で酔いつぶれる行動を言う。(転じて以降は山爺独自の解釈です)

無事だった生徒の中には『え!こんな吹雪でもやるの』とインタビューに答えていた者も複数いた。
生徒達は言いたくても大人たちには簡単に自分の意見を述べることが出来ない。発言するには大人たちが思っている以上に勇気がいるのである。

不安に思いながら嫌々参加した生徒もいたに違いない。それだけに今回遭難死した生徒たちの無念さは察するにあまりある。

主催者側としても一度は大事をとって登山中止といった適切な判断をしたと言うのに、さしたる根拠もなく、スキー場だから、ここなら大丈夫だと安易に錯覚し訓練を再開してしまった。そして訓練に熱中するあまり危険な位置まで進出してしまった。この軽率な行動に弁解の余地はないであろう。

ここまで書いていたら3・11の大津波の時に起きた石巻市大川小学校の小学生の受難を思い出してやるせなくなった。(108人中68人死亡6人行方不明)

あの時は地震発生から津波襲来まで40~50分近くの時間的余裕があり十分に逃げるチャンスはあった。生徒の中の複数の子が教師に『早く山に逃げよう、このままじゃ皆んな死んじゃう』と進言もしている。おそらく古老達からの言い伝えを信じていた子らであったろうに。しかし優柔不断で石頭の大人に握りつぶされた。その結果、進言したその子等も命を落としてしまった。

登山用品に雪崩ビーコンというものがある。雪崩で埋まったとき自分の位置を示す発信機のことでパーティが雪崩に遭遇した際に難(埋没)を免れた人がすぐに埋まった人の位置を確認し掘り出せる優れものであるが今回は誰も持っていなかった。

雪崩に遭遇した場合の生存率は15分~20分を過ぎるとその後は急速に低下すると言われているので雪崩ビーコンがあると有効だという。これに頼れば数十分で探し出せるがそれがないとゾンデという長い棒で文字通り手探りで探すことになるので運任せとなり掘り出すまで2~3時間以上はかかってしまう。

死亡者全員の死因が圧死であったことを思うと発生直後は全員生存していたのではないかと思う。もっと早くに救助ができていたらと思うと残念の一語に尽きる。

いち早く駆けつけた救助隊の話によれば雪中から唸り声が聞こえて掘り出したケースもあったらしい。で、あれば高額な雪崩ビーコンではなく、外圧や急激な加速度等を捉え作動する電子笛みたいなものが開発できないものだろうか。それなら安価に製作でき冬山登山者全員が持つことが出来よう。

雪崩ビーコンは高額(3~8万円)であり個人購入は難しい。今後こういった公的訓練では主催者側に準備を義務付ける方策が必要となろう。そうすることが今回犠牲となった人々へのせめてもの供養だろう。

県警は業務上過失致死も視野にいれ捜査する方針のようだが、ことの経緯や行動内容を見ればそれも当然であろう。しかしながら相手が県教育連では結果がどうなることやら?。

いじめなんかの言い訳同様、『想定外の天候により予測困難の事態が発生してしまいました。申し訳ありません。』 で、おしまいとなることが容易に想像がつく。

その後のニュースで高校生の冬山登山は禁止しようと言う動きまで出て来たようだが、問題が起きると、すぐになんでも禁止すれば事は済むと安易に考える大人達。これでは亡くなった若者も浮かばれまい。

那須茶臼岳山麓雪崩遭難についての項・・・完