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2021年5月8日土曜日

どうして悪天候の中、山へ向かうのか?

 今年のGWは29日(木)の祝日に始まり30日(金)に休暇を取れば7連休となり多くの方々が長期連休を取りやすい配列となった。連休中の各地のお天気だが関東地方を見てみると下図の通り一見よさそうに見える。行楽ならまずまずの天気と言って良いだろう。

だがこと山、特に2000m級以上の山登りとなると待てよ?となる。

29日が晴れ一時雨、まず晴れ一時雨の予報自体が変だ。普通なら曇り時々雨だろう。晴れと雨、これは大気の状態が不安定な時によく出る予報だ。連休後半の5日も同様に晴れ一時雨の予報だ。そして秋田・新潟地方は連休中ほとんど雨模様、これが意味することは?。

日本海上空に大陸からの冷たい気団が入り込み太平洋からの暖気とぶつかり合い2000m以上の山々は相当荒れるということが読み取れるのだ。山爺のような半可通の山男でもこれぐらいは容易に分かる。



ある程度、山に精通した者ならこの全国各地の天気予報を見比べれば今年のGWは登山には向かない天候だと分かるだろう。加えて新コロナの再流行で各所に緊急事態宣言や蔓延防止の警告が出ていることも少なからず影響し今年の入山者は少ないだろうと思っていた。

しかし残念なことに悪天候によりまたも多くの遭難事故が起きてしまった。NHKや民放が流す一般の天気予報で目的の地域だけを見て良い天気だから北アルプスや八ヶ岳へ行ってみようと判断したのならなんともはやである。起きてしまった遭難を時系列に列記してみよう。

5月1日、午前7時45分に八ヶ岳赤岳山頂付近より2人パーティの1人から相方が行動不能と連絡、同9時前に救助隊により心肺停止になっていた岩手県盛岡市の男性(55)発見。

当時の天気図によれば北海道に発達した低気圧が居座り動かない西高東低の冬型になっていた。

山頂付近は吹雪で20m以上の強風が吹き荒れていた。1日は平地でも18℃(新潟)気温は100m高度が上昇すると0.6℃下がる。赤岳山頂は2899mだから2900m×0.6=17℃ も下がることになり氷点下に近い。加えて風速1mにつき体感温度は1℃下がります。

本格登山を目指す人は山の気温についてこれくらいの知識を持ちたいものです。気象の基本を知らずしてがむしゃらに山に挑戦するのは”盲蛇に怖じず”、怖さがわからず行動するほど危なっかしいことはありません。遭遇してから怖さに気づいた時はもう遅いのです。

最近、夏山だけでなく雪山の美しさを仕切りにTVで放映している。本当に雪をまとった山は美しくもあり実にかっこいい。だから雪山に入る人が多くなったのかなあ。でも、良さばかりを流さないで怖さや基礎知識も教えてくださいな・・・敵を知り(山の怖さ)己を知れば(自分の技量)百戦危うからず。NHKさんたのんますよ。

この日、八ヶ岳で遭難した人はー20℃の環境に長時間晒されたことになる。真冬と違い5月の雪は湿り気が多いので衣服にまとわりつき始末が悪い。こうなるといかな防寒具でもたまらない。一刻も早く行動を止めて山小屋・雪洞・ツェルト(非常用テント)などに避難すべきであった。死因は低体温症による疲労凍死だと思う(山爺私見)風雪さえ避けて緊急避難さえすれば気温は氷点下前後なので容易にやり過ごせたはずなのに・・・

赤岳山頂には立派な山小屋が建っているが生憎コロナの影響で閉鎖中。本来山小屋は閉鎖中でも一部を開放して登山者の緊急事態に備えておくものだが、赤岳付近で去年コロナ閉鎖中の山小屋が何者かに荒らされる事件が起きた。山男に悪人はいないとされた信頼がぶち壊された。山の世界も地に落ちたものである。その影響からか山頂小屋は厳重に施錠されてしまっていたのだろうか。いつもの通り一部が解放されており吹雪を避けることができたなら・・・遭難した人は隠れたコロナの被害者だ。不運としか言いようがない。

5月2日、谷川岳へ日帰り登山中だった東京都板橋区男性(43)警視庁勤務と同庁女性(52)の2人パーテイの女性から8時40分ころ西黒尾根ざんげ岩付近で男性が滑落したと連絡が入った。遭難当日の天候は不安定で吹雪にもなったとある。

救助隊が現地に向かい男性の死亡を確認した。遭難連絡後単独下山途中だった女性は4日現在も行方不明。雪山は登りよりも下りのほうがはるかに難しく道を見失いやすい。山に精通した男性が滑落し同行の女性がパニックとなり下山途中で方向を見失い尾根道を外れマチガ沢に転落した恐れが大である。

なぜ悪天候の中、難易度の高い西黒尾根から進入したのだろう。2日の天気図を見てみよう。(上図)日本海に1つ、太平洋に1つそれぞれ低気圧がある。このような場合、真ん中の長野(槍ヶ岳)や上越付近(谷川岳)上空は気圧の狭間となり悪天候から一転、曇りや晴れになる場合がある。

しかしその好天はほんの数時間で太平洋側の低気圧の移動とともに再び天候が大荒れとなるので安易に『やあ、晴れたから大丈夫』と観天のみの判断で行動するとひどい目に遭う。

山岳作家で気象庁技師だった新田次郎はこの気象現象を題材として、この気象に騙されて判断を誤り遭難したパーテイの顛末を短編小説『偽りの快晴』と題して著している。

当日の谷川岳も入山当初は薄曇りか晴れていたのかもしれない。天気図さえしっかり頭に入れておけば朝晴れていてもすぐに天候が崩れることが分かるので登山は中止としたのではと思う。

5月3日に中央アルプスの宝剣岳に入山した千葉県流山市の男性(70)が行方不明に、6日に県警ヘリが宝剣岳尾根から300m下の西側斜面で男性が滑落死しているのを発見、収容した。当日登った登山者によれば3日は雪がぱらつく程度で行動に支障はなかったと証言している。

5月3日、北アルプス槍ヶ岳登山中の愛知・岐阜から来た3人パーテイが飛騨乗越付近で14時30分ころ1人(49)が滑落、他の二人(28)(37)が救助を要請してきた。

当時現場の天候は猛吹雪でホワイトアウト状態、危険な状況下にあったが救助隊が出動、救助に向かい3日夜に2人、4日朝に1人を発見したがいずれも死亡確認。悪天候の中、夜間まで捜索を続けた救助隊には頭が下がる。

山爺は冬期の那須岳で三斗小屋温泉に宿泊した翌日、たまには回り道をして朝日岳経由で帰ろうとした時に樹林帯を抜けたとたん猛烈な風と飛雪のホワイトアウト現象に遭遇したことがある。

ホワイトアウトとは耳障りは良い響きだが現実は深刻だ。とにかく寒いし息継ぎも出来ない。防寒具のフードをしっかり締めていても強風が顔とフードの隙間から入ってきて背中が膨らみ後ろに引っ張られる。あまりの寒さで何も考えが浮かばず気持ちが虚ろになる(あ~寒い位しか頭に浮かばない)。

視界は悪く(目が開けられない)積雪と飛雪で踏み跡が消えてしまい進路が分からなくなる。恐怖を感じたので、せっかく1時間も登った道を三斗小屋まで引き返し安全な樹林帯のルートから行動し直したことがある。いやあ、あの時は死ぬかと思ったわ。

左図は槍ヶ岳での救助中の画像だが、ご覧のように里では初夏の陽気でも3000mの高山では一度天候が荒れると真冬に逆戻りだ。

最初に滑落した人には気の毒だが、残り2人は吹きさらしの中、無防備状態で滑落者に付き添うなどして長時間その場に留まるべきではなかった。

留まっていても素人2人では遭難者を尾根まで引き上げる技量は持ち合わせていないのだから人情を振り切り山小屋へ向かうべきだった。・・そうはいうものの中々それが出来ないのが人間だけれどねえ。

5月3日、バックカントリースキー目的で尾瀬至仏山を目指して鳩待峠から山の鼻へ向かった横浜市男性(82)が4日7時、山の鼻付近で倒れているのを発見、死亡確認。それにしても82歳でスキー担いで山岳スキーとは・・・山爺もかく有りたい。

鳩待峠から山小屋のある山の鼻までは夏なら緩い傾斜を鼻歌交じり歩いても危ないところはなく小1時間で着くことが出来る。なんでこんなところで遭難?と思うだろう。

しかしホワイトアウトの吹雪となると樹林帯から広い尾瀬ヶ原に出たとたん方向が分からなくなるので地図と磁石を見比べながらの行動技量が必要になろう。目見当で闇雲に歩くとリングワンデリング(円を描いて同じ所をぐるぐる歩き回る死の彷徨現象)に陥り命を落とすことになる。遭難した方も吹雪の中、方向が分からなくなり雪原をいたづらに歩き回り低体温症で動けなくなったに違いない。

そのほかの地域でも多くの山で遭難が相次いでしまった。登山は、素晴らしい景色が得られて体力、精神力が鍛えられる素晴らしいスポーツだが危険が伴うのは否めない。だからといって悪天候による遭難まで仕方が無かったと肯定する気には山爺はとても思えないのである。

今年のGW中の遭難の原因はすべて悪天候にもかかわらず入山したことに尽きる。中央アルプスの宝剣岳での滑落遭難にしてから当時雪はぱらつき程度で登山に支障はなかったとの証言もあるが前日に雪が降り積もり登りにくいコンデションだったことは容易に想像できる。

この時期に難しい山に入る人はベテラン達に違いないので、ピッケルと本アイゼンは当然装備の上、入山していると思うが、今回の遭難者の中にストックと軽アイゼン(チェーンスパイク)のみで入山した人がもしもいたとしたら、それは無謀極まる。

【山爺の一言メモ】

右図のようにチエーンにスパイク(爪)がついており着脱が容易で使いやすい。なんといっても数千円で購入できるのが魅力だ。しかしチェーンスパイクは緩傾斜での残雪には有効だが急傾斜や降雪直後は雪を捉えきれずスリップしやすいので過信は禁物。

アプローチはチェーンスパイク、山頂への急斜面は本アイゼンと使い分ける必要があるだろう。

それにしても悪天候と分かっていてもなぜ登ろうとするのだろう。山爺の嫌いな言葉に次の言い回しがある。

『せっかく来たんだから行けるところまで行こうよ』

旅行なら行けるところまで行って失敗しても疲れるだけだからそれも良いでしょう。だが、こと山に関しては行けるところまで行って進退極まった時は手遅れです。嫌な予感がしたら”三十六計逃げるに如かず”、さっさと下山し麓の温泉に浸かり酒でも呑んで寝てしまうのが一番です。

こんな山爺を人は山歩きに真摯に向き合わない怠け者で山にゆく資格なしと呼ぶのかもしれませんが・・・

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